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創作料理 世沙弥|大阪の住宅地に佇む、現代アートに囲まれた愉悦の食空間

更新日:2月8日

「創作料理 世沙弥(せさみ)」は、アートコレクターの和田大象さんが手がける、知る人ぞ知る大阪のレストラン。現代アートを中心に集めた私設美術館を兼ねており、アート好きにはたまりません。原則、1日1客限定。どんな食の空間が広がっているのでしょうか。


立体作品が展示された「世沙弥」の前庭



住宅地にある隠れ家のようなレストラン

梅田からほど近いJR塚本駅から歩いて約5分の住宅地にある、まるで隠れ家のような「創作料理 世沙弥」。まさかこんなところに現代アートに囲まれて食事ができるレストランがあるなんて、思いも寄らないでしょう。建物の前庭に、新宮晋や植松奎二らの作品がパブリックアートのように展示されているので、ここかな?と思って近づいてみると、小さな看板に「世沙弥」と書かれています。




能の世阿弥と胡麻のセサミをかけて、店の名前に

「世沙弥」の名前は、能の世阿弥と、胡麻のセサミをかけたもの。オーナーの和田大象さんは、大阪・天満で胡麻を商う実家の「和田萬(わだまん)」に勤め、ビジネスパーソン時代は、金胡麻の栽培地を探して、トルコや南米など世界各地を巡っていました。60歳で退職した後、新たな人生を歩もうと、2008年に始めたのが「世沙弥」です。

建築家の坂本昭さんによって設計された、ホワイトキューブのような建築は、世阿弥にちなんで、長い廊下を能舞台に続く橋掛かりに見立て、客を幽玄な食の舞台にいざなうイメージで設計されました。当初、和田さんはピカソやダリが好きなごく普通の美術ファンで、現代アートの美術館にする考えなど全くなかったと言います。




加藤泉の作品から本格的に現代アートのコレクターに

アートコレクターとして知られるオーナーの和田大象さん


「アートといえば絵画と思っていたので、店には油絵を少し飾っているくらいでした。それが、2010年頃に、まだ名前が出始めたばかりの加藤泉さんの立体作品と出会い、この空間にぽんと一つ置いた時、あぁ面白いなと思ったんです。そこからですね、現代アートに魅了されて、本格的に集め始めたのは」

和田さんは気に入った作品を置いて、現代アートと料理が融合する空間を演出し、「世沙弥美術館」と名乗るようになりました。実は和田萬に勤める以前は、映画会社の日活で正社員としてポスター撮影や映画の宣伝をしていたキャリアがあるそう。画面や空間の演出はお手のものだったのかもしれません。



コレクションのコンセプトは、エロスとユーモア

2階の展示室。名和晃平や塩田千春、村上隆らの作品が並ぶ



コレクションしている作品は、草間彌生、村上隆、森村泰昌、会田誠、名和晃平、バンクシーなど誰もが知る有名な作家から、芸大の卒業展で見つけた若い作家のものまで名前を挙げたらきりがないほど。今回、展示されているものだけでも、1階のメインダイニングと2階の展示フロア、庭を中心に、絵画や立体、陶芸など200点から300点近い作品が並び、アートが放つパワーにくらくらしそう。半年に1度、展示替えも行われています。


世沙弥コレクションの特徴を聞いてみると、「立体作品、動きを取り入れた『キネティックアート』、そしてアートの教育を受けていない人たちによって制作された『アール・ブリュット』系の作品が多いこと。コンセプトは立体でも平面でも、エロスとユーモアを感じるものを集めています。お尻の作品も多いですよ(笑)。うちにルノワールがあっても『結構でございますね』で、終わりでしょう」と、ご自身もユーモアたっぷり。

美術館や作家からの依頼を受けて、世沙弥コレクションの作品を展覧会に貸し出すこともあるそうです。


壁に、森村泰昌氏の企画で和田さんがフェルメールの「牛乳を注ぐ女」に扮した作品。

手前には、蔡國強のこれまでの作品写真の破片を入れた「万華鏡」がずらり



廊下に展示されている加藤泉「無題」は2014年に霧島アートの森で発表された作品




コレクターの醍醐味は、応援した作家が世界的な存在に成長すること

1階に鎮座する、米谷健+ジュリアの《Dysbiotica》


今、和田さんが気に入っている作品の一つが、社会問題をテーマに国際的に活動するアートユニット・米谷健+ジュリアの《Dysbiotica》です。2020年に角川武蔵野ミュージアムの展覧会に出品された後、世沙弥にやって来ました。白化した珊瑚に覆われたような人の像は美しくもどこか不穏。「環境問題などをテーマにしている作家ですが、説明がなくても美しさに圧倒されます。それが芸術の力。世界的にビッグになると思います」と、熱がこもります。


コレクターの醍醐味は、自分が見つけて応援する若いアーティストが世界に認められる存在になっていくことだと和田さんは考えています。「例えば、名和晃平さんや加藤泉さんがまだそれほど有名でない頃から作品をコレクションしてきました。彼らは前の世代の世界や技術を分析して、自分たちの作品をつくり、成功して、今は彼らの時代になっています。そうするとコレクションを通して、前後50年の時代の動きを感知できるんです」



食器、カトラリーもほぼ全て作家もの。

現代アートに心を動かされ、第六感が刺激される時間

現代アートがずらりと展示されたダイニング


驚くのはアート空間だけではありません。食事をする時の食器やグラス、カラトリーはほぼ全て作家もので、お客さんの個性に合わせて一人ずつ選びます。オブジェを箸置きにするなど、心憎い演出にハッとさせられます。使う人を挑発するような桑田卓郎の茶碗など、触れるのがためらわれるような器も惜しげなくテーブルへ。


「現代陶芸の作品もたくさん並べていますが、飾りではなく全て使います。テーブルに座った時からお客さんを興奮させるような、五感プラスもう一つの感度、第六感を刺激するひとときであってほしい。完成された美を愛でるお茶の世界は性に合いませんが、私はここを茶室だと考えているんです。現代アートを見て、これ何なの?どこがいいの?と、問いが生まれ心揺さぶられるのが、茶の精神でしょう。そうやってアートと一緒に食事を楽しんでいただいて、最後に抹茶をお出しする。自分は現代の茶人だと思っています。一期一会とか言うと白けるので、言いませんが(笑)」

世沙弥の哲学を和田さんはそう表現します。



食器は一人ひとり異なり、オブジェの使い方が秀逸


見ているだけで楽しくなる酒器やグラス



名だたるアーティストも度々来訪。

遠くから噂を聞いて訪れるビジネスパーソンも


世沙弥では和田さん夫妻が趣向を凝らした創作料理を提供し、基本的に1日1客の予約制です。アート好きの人はもちろん、名だたるアーティストもたびたび世沙弥に食事に訪れています。オープンして10年以上が経って、店が少しずつ認知されるようになり、最近では訪れる人の4割が近隣のママ友や、噂を聞いて訪れるビジネスパーソンなど、これまでアートにはあまり関心がなかった人たちだといいます。


「森村泰昌さんがマリリン・モンローに扮した作品を見て、『これは美輪明宏さんですか』と真面目に聞かれることがあるんですが、『そうです』と冗談でお答えしています(笑)。アートのことを知らなくてもいいんです。『オブジェをこんな風に使うと食事が楽しいわね』と喜んでいただいています。ビジネスパーソンの人たちには現代アートに触れて、日頃抑え込んでいる自分の素直な感覚を解放していただきたいですね」


世沙弥では、「アートのみ鑑賞したい」という人のために、お昼のカフェタイムに見学も受け付けています。予約制で、入館料1000円(ワンドリンク付き)。希望すれば、和田さんが現代アートの世界を案内してくれます。






創作料理 世沙弥

​住所

大阪市淀川区塚本1-3-28

電話番号

06−6302−4856(10:00~19:00)

営業時間

食事は、平日(月〜金)は19:00から、土・日・祝は18:00から。4名以上であれば、お昼の時間(13:00から)も可。アートの見学を希望する人は、11:00~17:00の時間帯のみ可。いずれも要予約です。

入館料

ワンドリンク付き1000円。

定休日

不定休

公式Webサイト


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