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ロイ・リキテンスタインの壁画前で待ち合わせ。大阪・心斎橋でポップアートに出会う

更新日:2023年12月19日


男性の呼びかけに振り返る、金髪の女性のなんとも言えない表情。白い吹き出しと軽やかな英字。アメリカンコミックの一コマを切り取ったような、インパクトの強い壁画は若者たちの待ち合わせ場所になることも。


大阪といえば、かに道楽やグリコの看板などの巨大な立体看板をイメージする人が多いかもしれません。そんな、いわゆる大阪のイメージを覆すパブリックアートをご存じでしょうか。今回ご紹介するのは若者のトレンド発信地・アメリカ村近くにある、ポップアートの代表的画家ロイ・リキテンスタインの作品《OSAKA VICKI》。作品の魅力はもちろん、ロイ・リキテンスタインについて、近隣のアートスポットにもフォーカスします。





心斎橋の街に溶け込む、ロイ・リキテンスタイン《OSAKA VICKI》

ロイ・リキテンスタイン作《OSAKA VICKI》は、Osaka Metro四つ橋線「四ツ橋」駅から徒歩すぐの場所に位置しています。また、御堂筋線・長堀鶴見緑地線「心斎橋」駅からもアクセスが良く、四ツ橋方面に歩いて南17番出口から地上に上ると、ちょうど壁画を見上げられる位置に出ます。


壁画のある場所は、アメリカ村の入り口とも言える場所。古着、雑貨、レコードなどを扱う個性的なお店が広がります。ストリートカルチャーにあふれる街の雰囲気に、《OSAKA VICKI》は自然に溶け込んでいます。しかし一体、なぜこんな場所に巨匠の作品が設置されているのでしょうか。




大阪のために制作されたオリジナル作品《OSAKA VICKI》が生まれるまで


実はこの建物、商業ビルやビジネスビルではありません。地下一帯に広がるショッピング街「クリスタ長堀」のクーリングタワー(空調装置)が入っています。壁画がこの場所に現れた背景は、1997年のクリスタ長堀の開業と深いつながりがあります。

当時、クリスタ長堀の地域一帯をプロデュースしていた環境デザイナーは、アメリカ村の入り口に位置するこの場所にアメリカを象徴するものが必要だと考えたそうです。そこで、ニューヨークの画廊まで赴き、生前のリキテンスタイン本人と面会を果たし、交渉の末に絵画制作の承諾を得ることができました。《OSAKA VICKI》は1964年に制作した《VICKI》シリーズを元に、大阪に向けて描き加えられたオリジナルデザインで、世界でこの場所でしか観ることができません。




全長37mを超える、リキテンスタイン最大級の壁画

完成した1998年当時、金髪の女性をコミック風に描いた壁画は注目を集めました。

太い線でくっきりと描かれた女性の顔のアップ。左眉を少し寄せ、驚きか、困惑か、複雑な表情をしています。背景と女性の唇に塗られた鮮烈な赤も印象的です。

白い吹き出しには「VICKI! I...I THOUGHT I HEARD YOUR VOICE!(ヴィッキー、僕…僕は君の声が聞こえたと思ったよ)」とあります。他の作品にも言えることですが、この一コマに込められた作家の意図は語られていません。絵を味わうとともに、シチュエーションや言葉について考察を深めてみるのも面白い作品です。


ちなみにこの《OSAKA VICKI》、女性と男性、吹き出し部分だけでなく、その上下も含めて作品であることにお気づきでしょうか。吹き出し上のブラインドや額縁、下部のドットも、リキテンスタインがビルの壁面に合わせて描き加えた縦長の作品です。全体を含めると、縦約37m×横約15mにわたる、リキテンスタインの作品の中でも最大級といえるサイズとなっています。


90年代、アメカジ文化の中心地だったアメリカ村に、親和性の高いポップアートが登場したことで、街の一体感はさらに高まっていきました。ぜひ、実物の存在感、その規模感を確かめに足を運んでいただきたいスポットです。




ポップアートの巨匠ロイ・リキテンスタインについて

《OSAKA VICKI》を手がけたロイ・リキテンスタインは、アメリカ・ニューヨーク出身の画家(1923~1997)で、アンディ・ウォーホルと並ぶポップアートの巨匠として知られています。

オハイオ州立大学美術学部で学び、約3年間兵役についたのち、1949年には芸術学の博士号を取得します。リキテンスタインは在学中に、三次元空間の世界を二次元、平面で表現することを学びました。これは、その後も彼の画風の根幹となっていきます。


リキテンスタインは卒業後もオハイオ州立大学で講師をしながら製図工の仕事をして生計を立てつつ、作品を創作し続けていきます。当時は主に抽象絵画を描いていました。結婚や子どもの誕生、転勤を経て、ニュージャージー州のラトガース大学で勤めていた頃、「ハプニング」の創始者アラン・カプローに出会い、ポップ・アートに関心を抱き始めます。


Roy Lichtenstein《Look Mickey》(1961)

出典:WIKIART



作風に変化が起きたのは、ある出来事がきっかけでした。幼い息子にミッキーマウスの漫画を描いて見せた時、従来の絵画とは異なる大きなインパクトを持つことに気づいたのです。こうして最初のポップペインティング作品《Look Mickey》が誕生します。


リキテンスタインの新しい作風は画壇に新鮮な衝撃を与えました。「低俗」と辛辣に評する批評家たちもいましたが、彼が美術史に名を刻むアーティストとなることを予感していた人も多くいました。当時、自身のスタイルを模索中だったアンディ・ウォーホルが、リキテンスタインの完成度の高い作品を前に、漫画表現を断念したエピソードはよく知られています。

リキテンスタインは周囲の評価を横目に、新しく生まれたスタイルをものにしようと、自身の創作に打ち込んでいきます。そして、マスメディアに描かれた被写体を題材に、アメリカの大衆文化、大量生産・大量消費を感じさせる作品を多数発表しました。代表作には《Whaam》《Drowning girl(溺れる少女)》《ヘアリボンの少女》《M-Maybe》などが挙げられます。


Roy Lichtenstein《Whaam!》(1963)

出典:WIKIART




Roy Lichtenstein《Drowning girl》(1963)

出典:WIKIART


Roy Lichtenstein《M-Maybe》(1965)

出典:WIKIART



太い輪郭線と共に着目したいのは、《OSAKA VICKI》においても見られる印刷物のようなドットを用いた表現です。一般的に、カラーやグレースケールの印刷では、限られた色数(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックなど)のドットを網状に重ね合わせてビジュアルを表現します。リキテンスタインはこの技法を絵画に取り入れ、ベンディ・ドット(印刷の網点)の大小や密度を考慮して作品を描きました。主に、赤・青・黄・黒の4色が用いられています。

マスメディアの前でポーズを決める被写体がそうであるように、大衆が普段目にする印刷物が、細かな網点で構成されているイメージに過ぎないことを強調して見せたのです。

1995年、リキテンスタインは「ポップアートを通じて芸術を親しめるものにするとともに、芸術の本質と社会的役割を問いかける作品を多く残した」として、世界的に注目度の高い国際賞・京都賞も受賞しています。

《OSAKA VICKI》はリキテンスタインが亡くなる直前に手がけた作品で、他界した翌年の1998年に完成しました。本作はリキテンスタインの作風を如実に感じられる作品として、これからも強い輝きを放ち続けるでしょう。





ロイ・リキテンスタイン作《OSAKA VICKI》周辺のおすすめスポット

《OSAKA VICKI》周辺には、アートを楽しめるスポットが多数あります。訪れた際は、ゆっくり散策しながら心斎橋の魅力を体感してみてください。



ショッピングもアートも。日本最大級の地下街「クリスタ長堀」

クリスタ長堀は、Osaka Metro「長堀橋」駅~「心斎橋」駅~「四ツ橋」駅間の全長約730mを東西に結ぶ日本有数の地下街です。ファッションや雑貨、グルメ、各種サービスなど約100のテナントが展開。延床面積は約81,800㎡にわたり、単体地下街面積としては日本最大級の規模を誇ります。

クリスタ長堀の中では各所に多様なアート作品が飾られており、ショッピングを楽しみながらアート鑑賞ができる点も大きな魅力です。また、ギャラリースペースでは企画展示が行われており、随所にアートを感じられるスポットとなっています。





アメリカ村のシンボル・黒田征太郎《ピース・オン・アース》


大阪を南北に走るメインストリート御堂筋の西側に位置するアメリカ村。通称アメ村のシンボルといえる壁画が黒田征太郎(1939~)による《ピース・オン・アース》。道頓堀出身のアーティストで、イラストや壁画制作、ライブペインティングなどを中心に活動する黒田氏が1983年に制作した作品です。アメリカ村の中心街に位置するビル・関西電力道頓堀変電所の壁に描かれています。





斬新なデザイン、遊び心に満ちた空間に魅せられる

ラグジュアリーホテル「W大阪」

「大人の遊び場」をコンセプトにしたラグジュアリーホテル「W大阪」。御堂筋に面した場所に立地し、独創的なデザインと活気あふれる大阪の遊び心を目いっぱい体感できるホテルです。

1枚岩のようにそびえる漆黒の高層建築の外観デザインは、大阪出身の世界的建築家、安藤忠雄が手掛けたもの。インテリアデザインは、オランダのコンクリート社が担当しています。エントランスは、折り紙から着想を得た3000枚のプレートライトで季節ごとに色を変えるアライバルトンネルが、非日常の世界へと誘います。








心斎橋のアートカルチャーを肌身に感じる1日に

「OSAKA VICKI」や「ピース・オン・アース」など、心斎橋でユニークなパブリックアートを目の当たりにした後、アメリカ村や御堂筋沿いでショッピングを満喫し、夜にはアートを肌身に感じられるラグジュアリーホテルでホッと一息つく。こんな休日も魅力的。巨大なパブリックアートやコンセプチュアルな空間、心斎橋の街の雰囲気も相まって、新鮮なインスピレーションを得られるかもしれません。





基本情報



ロイ・リキテンスタイン《OSAKA VICKI》

​住所

大阪市中央区西心斎橋1-14

アクセス

  • Osaka Metro四つ橋線「四ツ橋」駅より3番出口より徒歩1分

  • Osaka Metro御堂筋線・長堀鶴見緑地線「心斎橋」駅より徒歩3分 南17番出口すぐ



クリスタ長堀

住所

大阪市中央区南船場4丁目長堀地下街8号

電話番号

06-6282-2100

営業時間

  • ショッピング、サービス 11:00~21:00(日曜日のみ20:30)

  • グルメ 11:00~22:00

定休日

12月31日、1月1日、2月の第3月曜日

留意事項

駐車場あり。一部営業時間の異なる店舗あり。

公式Webサイト



黒田征太郎《ピース・オン・アース》

住所

​大阪市中央区西心斎橋2-1-22関西電力道頓堀変電所北側壁画

アクセス

Osaka Metro御堂筋線・長堀鶴見緑地線「心斎橋」駅より徒歩3分



W大阪

住所

大阪市中央区南船場4-1-3

電話番号

06-6484-5355

アクセス

Osaka Metro御堂筋線・長堀鶴見緑地線「心斎橋」駅より徒歩3分

公式Webサイト


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