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アンティークと絵画に彩られた洋食店「網焼ビフテキ 小松屋」で、約90年変わらぬ王道ビフテキの味を堪能

Updated: Apr 16


大阪で1931年創業の老舗「網焼ビフテキ 小松屋」は都心の真ん中にありながら、まるでタイムスリップしたかのようなクラシカルな雰囲気に包まれています。店内のアンティークの調度品や絵画の数々は、先代オーナーが長い時間をかけてコレクションしたものなのだとか。お店を彩ってきた作品の数々とともに、親子三代にわたって受け継がれてきた名店の味をご紹介します。

(取材・文:石垣 久美子)





創業1931年、北新地で愛され続けるビフテキの専門店

「網焼ビフテキ 小松屋」の前身となる洋食店、「急行軒」が誕生したのは1931年のことです。現オーナーシェフの沢田昌宏さんの祖父・輝雄さんが、大阪市港区で開業しました。

その後、戦争を経た1946年に大阪市北区に移転。店名も「グリル小松屋」に改名しました。店名は、お店のあった小松原町に由来しているのだとか。網焼きのビーフステーキ、通称 “ビフテキ” は代々お店の看板メニューとして愛されてきました。

そして、現在のお店がある北新地に移転してから約40年。オフィスビルが立ち並ぶ場所柄、接待や会食の利用が多いのかと思いきや、アート好きのお客様が1人で来店することも多いのだそう。

「子どもの頃に家族で来たことがあるんですよ、と教えてくださる方もいますし、親子三代で通ってくださるお客様もいらっしゃいます」と沢田さんは言います。

移り変わりの激しい大都会だからこそ、昔ながらの味を守り続けるお店は街の人々にとって心のよりどころとなっているのかもしれません。





先代が愛したアンティークたちに囲まれて

お店に入ってまず目に入るのが、天井を飾る麗しいランプの数々。アールヌーボー様式のもので統一されており、クラシカルなお店の雰囲気を華やかに引き立てています。

店内にはほかにも絵画や調度品がところ狭しと飾られていますが、そのほとんどは沢田さんの父である先代オーナーが蒐集したもの。特別な日に食べるビフテキをもっと美味しく、思い出に残る味になるように、そんな思いがインテリアに込められています。



店内でひときわ目を引くのが、ドーム兄弟が手がけたランプです。アールヌーボー特有の曲線美と、精緻に表現された葡萄の図柄が印象的です。


ドーム兄弟は、エミール・ガレと並ぶフランスのガラス工芸の巨匠です。兄のオーギュストが工房の経営を、弟のアントナンが制作を指揮することで類稀なガラス工芸品の数々を世に送り出してきました。


店内にはほかにも、フランスのガラス工芸一家として名高いミューラー兄弟のランプなどがあり、あたたかな灯りが彼らの活躍した時代へと誘ってくれるようです。


壁を飾るのは大小さまざまな絵画たちです。ヨーロッパの油彩画もあれば、年代物のマイセンのプレートや日本風の絵画などもあり、ジャンルは多彩です。

「父の感性で自由に集めたものですから、あまり統一感はないんです」と現オーナーの沢田さんは言いますが、それがまた小松屋の唯一無二の風情を生み出しています。


古き良きものを愛でることを楽しんだ先代の人柄は、作品の飾り方にもよく表れています。

以前は無地のガラスだったという店内の間仕切りを、ステンドグラスに換えたのは先代のアイデアです。細かな彩色が施されたステンドグラスは100年ほど前にイギリスで制作されたアンティークで、サイズの足りない部分は新しいガラスを使ってリデザインしているのだそうです。

先代が、手ずから選んだアンティークをどうやってお店に飾ろうかと苦心した姿がありありと浮かぶようです。


可愛らしいコック帽のキャラクターはビンテージの看板からリメイクしたもの

そのほかにも、卓上用のランプを壁付けできるように手直ししたり、ビンテージの看板を活かしてお店の看板をつくったり、店内は実にユニークなアイデアにあふれています。




絵画がつないだ縁。洋画家・山口真功との出会い

山口真功《アネモネ》

アートにあふれたお店にはアーティストもやって来ます。30年以上の交流があるという洋画家の山口真功(やまぐちしんこう 1960〜)氏も、このお店を愛する一人です。

長年、日本とフランスを行き来しながら、コートダジュール地方を中心に南仏の風景を描き続けてきました。伝統的な洋画の趣と、目を奪われるような透明感ある色づかいが山口氏の持ち味で、その作品は “色彩のネオクラシック” と称されます。


山口真功《霧のヴィルフランシュ》

お店には山口氏の作品が複数、展示されています。

ランプのオレンジ色の灯りに照らされる店内で、《霧のヴィルフランシュ》は鮮やかなピンク色が際立つ作品。

南仏ニースに近いのどかな港町、ヴィルフランシュ=シュル=メールを描いたもので、山口氏の代表的なモチーフの一つです。


山口真功《ニース旧市街の夜》

使用する絵の具にも、山口氏の色彩へのこだわりが見られます。絵の具が製造された年代に着目し、1960年以降の自分と同じ時代に生まれた新しい色だけを選んでいるのだそうです。


「絵の具は時代によって新しい色が増えるいっぽう、逆に人体に危険な成分があるとわかって製造されなくなる色もある。ゴッホの時代にしかない色があるように、100年後の人が自分の作品を見た時に、2000年代らしい絵画の色だと感じてくれたら嬉しい」と山口氏は言います。


ネオクラシックな山口氏の作品は、新しい時代を受け入れながらも変わらない味を守り続けてきた小松屋の姿と重なるようです。





気品あふれるノリタケのプレートでビフテキを頂く

特別な日の一皿は、目からもじっくり味わいたいものです。

小松屋の代名詞である網焼ビフテキは、ノリタケ食器のプレートで恭しく運ばれてきます。繊細な扱いを求められる高級な洋食器を使う洋食店は、近頃少なくなってきたようですが、小松屋では今も昔も変わらずにこのスタイルを守り続けています。

変わらないのはお店の雰囲気だけではありません。ビフテキの味付けも、昔から変わらず塩コショウのみ。お肉の旨味をストレートに味わうのがビフテキの醍醐味という考えからです。


お肉は濃厚な旨味とさっぱりした後味が特徴の赤身の多い牛肉を使います。口当たりのやわらかなテンダーロインに網焼きの焦げ目がしっかり入り、食欲をそそります。

目まぐるしく時代が変化する中、“いつ来ても変わらない味” を維持するのは簡単なことではありません。長年、懇意にしていた肉店が閉店してしまった時は、変わらぬ味を維持するため、新しい取引先の開拓にずいぶん苦労をされたのだとか。

時代を越えて、長く愛されてきたお店を受け継いだからこそ、「ビフテキの味だけでなく、料理の出し方やお店の雰囲気も含めて、お客様が望む小松屋を守り続けたい」と、変化を感じさせない努力を続けていることが伝わってきました。





美術館巡りの後に立ち寄りたい、とっておきのレストラン

小松屋のある北新地は、大阪中之島美術館や国立国際美術館のある中之島エリアからも徒歩圏です。美術館を巡った後に訪れればアート談義にもより一層花が咲くのではないでしょうか。

歴史と思い出の詰まったアンティークに囲まれていただくお食事は格別です。「こんな素敵なレストランがあるよ」と誰かに教えたい反面、私だけの隠れ家にしておきたい、そんな幸福な葛藤を噛み締めるひとときを味わえることでしょう。




網焼ビフテキ 小松屋

住所

大阪府大阪市北区曽根崎新地1-11-20

電話番号

06-6345-2123

営業時間

11:30~23:00

(料理ラストオーダー22:00、ドリンクラストオーダー22:00)

定休日

日曜

※8/13~15、12/31~1/3は休業

留意事項

全面禁煙

公式Webサイト


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