大阪湾に浮かぶ人工島、舞洲(まいしま)。その入り口に、まるで宮殿のようなカラフルな建物があるのをご存じですか?オーストリアの芸術家・フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー(1928〜2000)によるこのユニークな建築、実はゴミ焼却場なのです。
この記事では、世にも美しいゴミ焼却場「舞洲工場」の見どころや、見学方法、施設周辺の観光、グルメスポットなどをご紹介します。
大阪のゴミ焼却場「舞洲工場」とは?
遠くからでも目を引く舞洲工場。世界的に著名な芸術家であるフンデルトヴァッサーが手がけたことや、無料で内部を見学できることはあまり知られていません。大阪の知る人ぞ知る名建築といえるでしょう。
舞洲工場までのアクセス
公共交通機関を利用して舞洲工場へ行く場合、最寄駅はJRゆめ咲線「桜島」駅と、Osaka Metro中央線「コスモスクエア」駅の2カ所から。それぞれの駅でバスに乗り換え約10分。「環境施設組合前」停留所で下車すれば、舞洲工場は目の前です。
近隣には「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」や、世界最大級の水族館として名高い「海遊館」など、大阪で人気の観光スポットがあります。また、すぐ隣に臨む人工島・夢洲(ゆめしま)は2025年に開催される大阪・関西万博の会場です。万博開催を前に、今後ますます注目を集めるエリアとなるでしょう。
自然の美しさを愛したフンデルトヴァッサーの建築
舞洲工場は2001年、環境保護を重んじる芸術家として世界的に知られるフンデルトヴァッサーの設計で建てられました。正式名称は「大阪広域環境施設組合 舞洲工場」といいます。
自然と一体化するような曲線的なデザインと、火や水をイメージしたカラフルな彩色が特徴です。地下2階、地上7階建て、約1万7,000平米に及ぶ巨大建築には、ゴミの焼却施設と粗大ゴミの破砕施設が備わっています。現在、屋外の緑地と2、3、5階が見学ルートとなっています。
舞洲工場を手がけた世界的芸術家フンデルトヴァッサーとは?
フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーは1928年にオーストリアのウィーンで生まれ、亡くなる2000年まで数々の名作を世に残しました。
本名はフリードリヒ・シュトーヴァッサーといい、21歳からフンデルト(ドイツ語で「百」)ヴァッサー(ドイツ語で「水」)の名で活動を開始します。日本人女性と結婚した彼は日本との縁が深く、絵画作品には日本語で「百水」のサインが記されることもありました。
「自然界に人工的な直線はない」という考えから、フンデルトヴァッサーの建築には自然と調和する曲線や渦巻き模様が多く取り入れられています。また、炎や水を表現する豊かな色彩表現と装飾性が特徴です。代表作はウィーンにある集合住宅の「フンデルトヴァッサーハウス」や、美術館の「クンストハウス・ウィーン」など。
彼は生涯で2つのゴミ焼却場を設計しています。一つはウィーン市内にある「シュピッテラウゴミ焼却場」、そして日本の舞洲工場です。一般的に、ネガティブなイメージを持たれやすいゴミ焼却場ですが、その優れたデザインはゴミ焼却場のイメージそのものを変えてしまうほどの魅力に溢れています。
フンデルトヴァッサーの哲学を感じる!
舞洲工場のココに注目
初めて舞洲工場を見た人は、まるでテーマパークのような個性的な外観に圧倒されることでしょう。そこには、自然を心から愛するフンデルトヴァッサーの思いが込められています。
自然と共生する建築
フンデルトヴァッサーは、「建物を建てると自然を破壊するので、そのぶん緑を植える」という考えの持ち主でした。
舞洲工場にも、遊歩道や緑地、外壁や屋上の緑化など多くの緑が植えられており、自然との共存を目指して建設されたことがわかります。
開業から20年以上が経ち、草木や樹木はすでに建築と一体化しているように見えます。
全て形の違う窓や柱
舞洲工場の外観には無数の窓や柱がデザインされていますが、どれ一つとして同じものはありません。そこには「自然界には同じ形や色のものは存在しない」というフンデルトヴァッサーの思いが込められています。
空にまっすぐ伸びる青い煙突
舞洲工場のコンセプトは「技術・芸術・エコロジーの融和のシンボル」。中でもそれを体現する設備の一つが金色の球体を頂く青い巨大な煙突です。外壁に多彩な窓がデザインされ、高くそびえる姿はまるで塔のようですが、この煙突からはゴミの焼却によって生じる排ガスを適正に処理したうえで排出されています。
ゴミを燃やすとダイオキシン等の有害物質が発生しますが、900℃以上の高温で完全燃焼することにより発生を抑制し、排出基準値1(※)を大幅に下回る数値(0.00015)まで抑え、無害化して放出しています。
見た目の魅力に加え、浄化された気体を大気中へ循環させるこの煙突は、アートとサスティナビリティが一体となった設備といえるでしょう。
(※)単位:ng-TEQ/m3N
ちなみに、今回取材に応じてくれた中村俊一工場長に舞洲工場のお気に入りのスポットを伺うと、こちらの煙突を挙げられました。辺りに生い茂る新緑や、煙突を照らす月など、季節や天候、時間の変化と共に見られる独特の風景が魅力だそう。日々さまざまな表情を見せてくれるのは、自然を愛したフンデルトヴァッサーの建築ならではの魅力かもしれません。
処理能力は1日900t!巨大なゴミ処理設備はココがすごい
舞洲工場は大阪市、八尾市、松原市、守口市から出るゴミの処理・処分を担う6つの工場のうちの一つです。ゴミ処理能力は1日あたり約900t! 全国的に見ても規模の大きなゴミ処理施設といえます。
見学ツアーでは、15,000㎡ものゴミが貯留できる巨大なピットや、直径6メートルのクレーンがゴミを運ぶ様子を間近に見ることができます。
ここでは、見学ツアーで知ったゴミ処理施設の注目ポイントをご紹介します。
365日24時間、休まず稼働!
まず驚かされるのが、ゴミ処理施設が絶え間なく稼働し続けていること(定期点検など計画的な停止を除く)。人々が寝静まった夜中も、職員は施設の運転管理を続けています。
収集されたゴミは、900度を超える高温で焼却処分されます。ゴミを燃やし続けることで燃焼にかかるコストが不要となり、安定的かつ持続的にゴミを処理できる環境を守っているのです。
最新システムと人間のノウハウが融合
ゴミの処理にはさまざまな工程があります。粗大ゴミ破砕処理設備では、ゴミを粉砕し、金属を分別して回収。ゴミ焼却設備では、クレーンで移動し、燃やして灰にします。ゴミ処理に欠かせないこうした作業は、今や全てコンピュータ制御で行われていますが、最先端のシステムを導入していても、900度以上の高温で燃焼を維持するには工場職員の目による監視や手動での調整が不可欠だそう。機器の整備や点検も工場職員の手で行われており、最新システムと人間の知識やノウハウが融合し、巨大なゴミ焼却場を動かしている様子は圧巻です。
ゴミ処理だけじゃない、電気を生み出すサーキュラーエコノミー
ゴミ焼却場は、単にゴミを燃やして灰にするだけではありません。ゴミを燃やすことで生じるエネルギーで、年間約1億kWhを発電しています。これは一般家庭の使用電力量に換算すると約3万世帯分に相当するのだとか。
また、工場内で使われる電力は発電でまかなっており、余った電力を販売することで収益も上げるというサーキュラーエコノミー(循環経済)が実践されています。
ちなみに、世界的に見るとゴミの焼却処分は主流ではなく、諸外国では埋め立てやリサイクル、コンポスト(堆肥化)などの方法が採用されています。そのため、海外から訪れた見学者の中には「ゴミを燃やして処分する」という仕組み自体に驚く人も多いそう。工場見学をきっかけに、世界のゴミ処理方法について目を向けてみるのも面白いかもしれません。
舞洲工場を見学するには?
舞洲工場を見学するには、無料の見学ツアーかオープンデーを利用しましょう。それぞれ申し込み方法などを紹介します。
見学ツアー
舞洲工場では個人や団体(10名以上)の見学を受け入れています。見学するには10日前までに、以下の申し込みサイトから予約登録が必要です。
オープンデー
年に3回、予約なしで誰でも見学ルートを自由に見て回れるオープンデーが開催されます(入場無料)。ゴミ収集車に乗って記念撮影をしたり、限定イベントが開催されたりと、楽しみながら施設を見学できる1日です。
次回開催のお知らせや最新情報はこちらから。
気軽に立ち寄れるグルメスポット「まいしまマルシェ」
舞洲の西側にはスポーツ施設やBBQ場など、レジャー施設がたくさんあります。その玄関口に位置するのが屋外型複合施設「まいしまマルシェ」です。
常設店の「Huli Huli」(フリフリチキン、唐揚げ、お弁当、ドリンク等)、「PROSSIMO」(ソフトクリーム)のほか、期間限定でキッチンカーがやってきます。スイーツから屋台料理まで、その時々でさまざまなグルメと出会えるのが魅力です。
九州産の厳選鶏肉を使った「Huli Huli」のからあげは、モモ肉とムネ肉の2種類。外はカリっと中はジューシーなからあげとアツアツご飯がセットになった「からあげ弁当」「からあげカレー弁当」や、宮崎県のブランド・ポーク(豚肉)を使用した「生姜焼き弁当」など手軽なランチにおすすめです。
本格的な炭火焼ステーキが味わえる「Cafe & Bar LIBER」
舞洲工場の最寄り駅の一つ、JR桜島駅前にあるのがこちらのお店。
「リーベルホテル大阪」内にあるレストランで、石窯でじっくり焼き上げる炭火焼ステーキが看板メニューです。本格炭火焼牛肉ステーキコース(サラダ、パンorライス、ソフトドリンク付)や、お手軽なワンプレートランチ(パンorライス、ソフトドリンク付)で頂くことができます。
そのほか、アジア初のジェラート世界チャンピオンが監修したジェラートや、季節のフルーツを使ったパフェなどスイーツメニューも魅力。ランチにも、カフェタイムにもおすすめのお店です。
そのほか、アジア初のジェラート世界チャンピオンが監修したジェラートや、季節のフルーツを使ったパフェなどスイーツメニューも魅力。ランチにも、カフェタイムにもおすすめのお店です。
大阪でもっと堪能!フンデルトヴァッサーの名建築
日本で観られるフンデルトヴァッサーの建築は大阪に集中しています(※)。せっかく大阪に来たのなら、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
(※)大阪以外では、東京・赤坂にフンデルトヴァッサーの作品「21世紀カウントダウン時計」があります。
舞洲スラッジセンター
舞洲工場のすぐ隣に建つ「舞洲スラッジセンター」は、下水から生じた汚泥を処理する施設です。外観は舞洲工場とよく似ており、まるで双子の建物のよう。 1階のエントランスホールや建物周辺の緑地は一般開放されており、予約なしで自由に見学できます。建物内部の見学は、事前に予約登録が必要です。詳しくはWebサイトをご覧ください。 注目は、エントランスホールにある展示物。フンデルトヴァッサーが書いた建築スケッチや図面、設計当時の様子を写した写真など、貴重な資料を見ることができます。
キッズプラザ大阪
「キッズプラザ大阪」は、日本初の本格的な「こどものための博物館」です。家族で一緒に楽しめる展示やワークショップを通じて、子どもたちがさまざまなものづくりを体験したり、社会や文化、科学に触れたりする機会を提供しています。
フンデルトヴァッサーがデザインした「こどもの街」は、日本国内で唯一の室内作品です。迷路のような回廊や吊り橋、滑り台などが組み合わさり、子どもたちが自由に身体を動かして遊べる空間となっています。
アートを入口に、環境や暮らしを見つめ直す
日々の生活の中で必ず出てしまうゴミですが、それがどのように処理されるのか、まじまじと目にする機会はめったにないもの。フンデルトヴァッサーの世にも奇妙で美しいゴミ焼却場は、その随所に自然を愛する芸術家の思想が宿っています。一度訪れたら、その建築に魅了されるとともに、ゴミや環境問題を見つめ直すきっかけも与えてくれるはず。アートを味わいながら、環境や日々の暮らしに思いを馳せる休日を過ごしてみてはいかがでしょうか。
基本情報
※2023年10月時点の情報です。最新情報は公式サイトをご確認ください。
舞洲工場
住所 | 大阪市此花区北港白津1-2-48 |
電話番号 | 06-6463-4153 |
見学受付時間 | 平日10:00、13:00、15:00 ※事前予約必須 |
公式Webサイト |
まいしまマルシェ
住所 | 大阪府大阪市此花区北港緑地2-1-93 |
電話番号 | 06-4256-8889 |
営業時間 | 営業時間は店舗によって異なります。詳しくは公式Webサイトをご確認ください。 |
定休日 | 年末年始、不定休あり |
公式Webサイト |
Cafe & Bar LIBER
住所 | 大阪府大阪市此花区桜島1-1-35 リーベルホテル大阪1階 |
電話番号 | 06-6462-2222(レストラン代表 10:00〜19:00) |
営業時間 | 販売 11:30~22:00 店内飲食 11:30~22:00(ラストオーダー21:30) |
定休日 | なし |
留意事項 | メニューは予告なく変更になる場合があります。 |
公式Webサイト |
舞洲スラッジセンター
住所 | 大阪府大阪市此花区北港白津2-2-7 |
電話番号 | 06-6460-2830 |
営業時間 | 9:00~17:00(エントランス部分のみ) |
定休日 | 土日祝 |
留意事項 | 施設内部の見学は事前申し込みが必要です。詳しくは公式Webサイトをご確認ください。 |
公式Webサイト |
キッズプラザ大阪
住所 | 大阪府大阪市北区扇町2-1-7 |
電話番号 | 06-6311-6601 |
営業時間 | 9:30~17:00(最終入館は閉館45分前) |
定休日 |
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公式Webサイト |